hosi08:私の満足度(3.3)
『ド素人だった24歳の専業主婦が業界に革命を起こした話』というコピーにつられて購入。
非常に興味深いテーマで、私は個人的にドン底から這いあがっていくという、この手のサクセスストーリーは結構好きである。

hyousi帯によると、TV番組にも取り上げられたようでもあるが、私はその番組は見ていない。
たまたまネット情報の宣伝コピーと、この表紙のビジュアルのお姉さんが?というのに惹かれて、目を通してみようかな・・・・というのが、この本を手にしたきっかけ。

とにかく、一気に読み上げた。
単純な読後感としては、スラスラと読めて面白かった。

一応、ノンフィクションではあるというものの、話の設定シチュェーションから、登場人物、展開がドラマチックすぎて、やや話がうますぎるなと思うところもある。
その気になれば、この流れはドラマにも映画にも展開していくことはできよう。

まぁ、この件については、後述したいと思う。
ただ、読んでいて、私なんぞには、ここ最近忘れかけていたことにガツンとくるものがあり、なかなか考えさせられるところが多かった。

obi著者である坪内氏の、この事業にかける情熱と行動力。
大義のため小事に拘らず、なにがなんでもやりぬくという姿勢には、年の差、性別などはまったく関係なく、もう頭が下がるのみ。

管理職になったばかりの人、これからなる人、管理職ではあるけれど立ち位置を見失いそうな人、等々の方々にはぜひ一読をお薦めしたい一冊。
この世の中、仕事に限らず何かを成そうとすると、必ず人との摩擦はおきるもの。

たとえ価値観が一緒と思える相手でも、その意志の疎通や継続的に共感を得ていくということは、会社のみならず、それは家族であってさえ容易なことではない。
それは、人はどこまでいっても最終的には一人であり、その最小単位の個人であることで物ごとの是非を考えてしまうというのが本質であるから。

そこには、損得といった利害関係や、個人のプライド、どうしても理屈だけではまかり通らぬ感情などが大きな壁となって立ちはだかる。
それを一つの事業目標に向って、荒くれ者たちを、まだ20代そこそこのシンングルマザーが代表取締役として束ねていく。

さらに、その個人の集合体が永年の時を刻んで構築してきた、旧態依然とした大きな既存勢力に対しても、全く動じることなく、自らの信念を貫き対峙していく。
まさに、痛快極まりない。

日本の漁業の未来を見据え、八面六臂の活躍で日本中を駆け回る姿は、どこか「日本の夜明けを・・・・」と、声をあげていた幕末の誰かさんにそっくりでもある。
ひとかどの人物と思われる人は、いつの世も、世代や性別を問わず、現れる時は現れるものなのだろう。

ただ・・・・・・。
ここは、私の読後感として、気になることがないでもない。

「とにかく、すばらしい!!」というだけのベタボメの読後感であれば、通販サイトの商品レビューなどであまたと溢れているので、そちらを参考にしてもらえればと思う。
ここは私らしく、率直にその気になるところを述べておこう。

しかし、あらかじめ誤解のないように。
私は、この坪内氏本人のことや、事業活動そのものには、まったくケチをつける気はない。

あくまでも、この本のクオリィティとしての所感なのである。
つまり、ひょっとしたら、著者がどうとかというよりも、出版社の編集サイドの問題なのかもしれないのだ。

では、その気になるところを列記してみよう。
基本的に、著者本人のプロフィール描写が充分ではないということなのだと思われる。

①大学中退と離婚してシンングルマザーというのが、果たして絶望的と言えるのであろうか?
本の帯にもあるように、著者である坪内氏は大学中退、離婚を経験しシングルマザーということ。

そして、まえがきの中で、その経歴を「傍から見たら絶望的に見えるかもしれない」と表現している。
確かに、ダブルでこういう経験をすると、本人的にはショックだったかもしれないし、実際、シングルマザーとしての生活は相当に大変であったであろう。

しかし、世のシングルマザーの方々は、苦労しながらも必死にがんばっている人も決して少なくもないし、大学中退という事実を加えたとしても、同種の経験をしている人も、現実には多くいらっしゃると思う。
これを、絶望的などという表現に一括りにされるのは、ちょっとどうかなということ。

確かに、突然の病気によって本人の夢を断念せざるを得なかったのは、断腸の思いでもあったであろう。
しかし、後半で出てくるエピソードではあるが、稼業が自営の家に生まれ、小学2年生で海外旅行を初体験、高校時代にオーストラリアに留学、病気の後もカナダへ留学できるという、比較的な恵まれた環境でもあったようである。

さらに、結果的には離婚ということではあるものの、辛い状況の中、子を授かるほどの伴侶も得たわけである。
そして、このビジュアルの持ち主でもある。

この本の構成上、ドラマチックに仕立てる必要があったのかもしれないが、必要以上の底辺感を演出する必要があるのかと、私にはまず第一に思えたこと。
一般的とは決して言えないかもしれないけれど、それなりに(どちらかというと恵まれた環境からの)山もあって谷もあったという経歴ではなかろうか。

あえて、これをいうなら、世の中卒や高卒の離婚体験者の方々に対して、大変失礼な表現となるということは忘れてはならないと思うのだ。
がんばっているのは、この著者だけではない。

②大学中退の理由?
そして、大学中退のくだりについても、もともとCAを目指していたことが、突然の病気によってその夢が絶たれたということ。
これは、誤診だったとはいえ、余命半年といわれるにあたっての衝撃は相当のものであったのは容易に想像できる。

このあたりについては、未来を描いていた血気盛んな若い人の身に突然起きたアクシデントとしては、大変お気の毒でもあるし、同情の念を抱くものでもある。
しかし、結果として「CAになれないなら、大学に通う意味はあるのだろうか?」という疑問から、大学を辞めたというのはどうだろう?

本人としての勉学目標はそうだったのかもしれないが、そもそも大学ってCAになるためだけにあるのだろうか。
CAになるためだけだったら、なぜ大学ではなく専門学校にいかなかったのだろうか?

この著者にとって、大学での学業って何だったのだろうか?という疑問が残る。
「ふつうの豊かさに縛られていた・・・・・、」という、本人の人生哲学のもとになると思われる記述も見られるが、そのふつうを維持してくれていた周りへの感謝の気持ちというのが本人から見えず、残念ながら私には、なかなか共感には至らないのだ。

病気によって、卒業まで学業が続けられなかったというのであれば、それはやむを得ないことなのかもしれない。
しかし、この情報量だけで判断するに、大学中退という事実に関してだけのことでいえば、あまりにも必然といえば必然の自己責任であると思わざるをえない。

③コンサルタントをしていたということだが、どうやってこの仕事をしていたのだろうか?
本文の出だしから、いきなり旅館のスタッフに対するコンサルティングをしていた、という話が始まる。

これには、私は最初から状況理解に苦しんでしまった。
正直なところ、この段階で得られる著者のプロフィールから想像できることで、とてもコンサルティングなどできる資質が感じられないのである。

特に経営学を勉強していたわけでもないし、コンサルティングができるほどの就労経験をしていたという記述もない。
コンサルティングという言葉の定義が違うのか?とも思ったが、どうもそこへの詳細記述もないのだ。

接客?財務?労務?業務システム?それとも総合的に経営指導?
このことは、後の新規事業を牽引する人物の側面としては、結構重要な部分でもある。

この本における本質部分のことは、単なる思い付きや、勢いだけでは実践できるものではない。
もともとの本人の資質の部分への描写が、あきらかに欠けているため、そもそものこの坪内知佳という人は、どういう人か?という部分が全然把握できないのである。

④社長業の実態は?
この本を読んでいて、ところどころで???と思ってしまうのは、経費の部分である。

事業化を進めたものの、全てが順風万端でもなく、何度か経営的な危機が訪れているのが記述されている。
その度に、著者はじっとしていられない!!やることがある!!とばかりに能動的に広範囲に営業活動を続ける。

お子さんも24時間保育に預けてのこと。
人を雇い入れるのも、主張先での面接?面談?によって、ホイホイと採用している。

人や物への投資という部分でも、思いきりがよいといえばよいのだが、この本はフィクションではなく、現実の話をまとめ上げているのであろう。
話としては痛快そのものなのだが、現実目線でいうと資金繰りやキャッシュフロー、また本人の報酬面についてはどうなっているんだろうと、思えて仕方がない。

ここが私が冒頭に管理職にお薦めといいつつも、経営者、これから起業する人をその中に入れなかった理由でもある。
何度もいうが、この話は創作ではない・・・・・・はずである。

もちろん、すべてが公表できるものではないということも百も承知であるが、少なくとも事業を進める話としては、極めて基本的なことで、まったくふれていないというのは片手落ち。
ここに蓋をしてしまうというのであれば、そもそも起業家をテ-マにした本を出版する意義があるのだろうか。

と、まぁ・・・・・・。
私なりに思うところもあったわけである。

本当は、まだまだ突っ込むところもあるのだけれども、これ以上は、ただの粗探しになってしまうので、このへんにしておこう。
しかし、何度も繰り返すが誤解のないように。

著者ご本人が取り組まれていることは、すごく賛同できることだし、この方のがんばりという意味では、冒頭にも述べたように、私自身も冷や水を浴びせられたような感銘を受けたのは事実。
何かに取り組むには、青いと言われようが何と言われようが、一途な情熱は必要。

「そろばんより、ロマンが大切なときがある」というのはまさに名言かと思う。
でも、ロマンだけでも事が成せないのも事実。

この本の仕上がりとして、私的には、その現実面にもふれて欲しかったところでもある。
この本の最後の部分で、締めくくりとして、所信とも経営理念・方針的なことが述べられている。

いささか、気負っているのかな・・・・とも思われるところもあり、やや心配になるところもあるが、この本の全てが、今後のご本人の実際の行動となっていくわけでもないと思うので、とにかく、がんばって欲しいということには変わりはない。
この本の読後感とは別に、著者にはエールを送りたい。